医療情報システム担当者の黄昏

アラ定年の医療情報システム担当のひとり語り

病院入口での検温目的のサーモグラフィ導入について

 Covid19対応で体温測定を施設入り口でやっているところは多い。
 少し前に行った福岡市天神のデパートでも主な入り口には人を立たせ検温をやっていた。(あれからもう2ヶ月以上天神には行ってない)
 今、Covid19第3波で警戒レベルが上がっている病院も多いと思う。

 病院でも入院患者でクラスタが発生したら罹患した患者対応やら病棟での対応、外来閉鎖などが考えられ、Covid19のせいで前例のない減収が続く病院としては死活問題である。クラスタが発生した場合の対応とその後の対応での減収を考えたらせめて入り口での検温/問診によるスクリーニングで感染の可能性のある患者を引っ掛けて別に対応しようとする当然だと思う。

 ただ、検温/問診だけではCovid19感染者を院内に入れないようにするのはほぼ不可能なこともわかっている。
 もっと確実性が高いPCR検査等の他のCovid19の検出手段を来院者に全員に施すには手間や時間やお金がかかりすぎ現実的ではないので検温と問診という手段に頼らざるを得ない。

 検温するための職員がどこからともなく湧いてくるわけない。今いる職員を本来の業務から引っ剥がして代わり番こに風除室あたりに立たせることになる。一日何人かの有熱者を検出(それも概ねCovid19ではない)するのは本来業務が遅延する上に人件費がかかるし対応する職員も疲弊する。

 自分もやっていた。風除室に来院者が来るたびに猫なで声で「お熱測らせてくださーい」とか言って。二、三日に一回、30分から1時間程度立っていた。一日中狭苦しい情報システム室にいると気が滅入るので明るい風除室は自分的にはいい気晴らしになったが、他の殆どの部門では要員配置の関係などで業務上かなり苦しいところもあったようだ。
 そう言った状況で検温の手間を省くために注目されたのがサーモグラフィである。
 私が情報屋の分際で専門外のCovid19がどうのとか言ってるのはサーモグラフィ導入について検討しろと病院の上の方の方に命令され、感染制御をやっている他の病院スタッフと話をしながら検討したからである。

 昔のサーモグラフィは本当に表面温度を測ってそれをグラデーションや色分けして表示するだけのもので、病院に設置してもディスプレイに移ったそれらの画像を誰かがじっと見て判断するしかなかった。実用的ではないので、旧来のサーモグラフィを持っていた病院では今回使わなかった病院もあるらしい。
 当時より時代が進んでいることもあり、私は今回の検討はもっと高い機能を期待した。

 私が病院の入り口/受付に設置して意味があるサーモグラフィの条件としては以下のように考えていた。温度を測る機能は必要だが、それよりその後の運用を支援する機能も重視した。

1)有熱者を検知したらアラーム等で注意喚起できること。
 サーモグラフィを監視する目的だけの要員を割かないようにしたい。

2)複数の来院者が同時にサーモグラフィの画角内を通過する際に来院者各々を識別し各々の体温を個別に計測できること。
 病院では同時に複数の患者/付添の来院があるので。

3)サーモグラフィで検出した体温を同時に撮影しているビデオカメラの映像上の人物にオーバレイ表示することができ、どの人の体温が何度であると表示されること。予め設定された閾値より高い体温の人物と低い体温の人物は色分けされること。
 有熱者を特定するため。

4)有熱者検出時(アラーム発報時)に3)の画面を画面分割でしばらく画面上に保持できること。または人物特定のためその画面がすぐ呼び出せる機能でも良い。
 アラーム時にサーモグラフィが特定した有熱者対して声掛けなどで対応する職員が画面上で有熱者の顔などを確認/特定するため。

5)撮影した画像を一定期間保持する機能(レコーダなどで)があること。
 事後の確認のためで2W~4W程度保持できればいいのかな

 1)2)3)4)が出来たら有熱者検知は結構無人化できるのではないだろうか。

 前髪が長い人や帽子をかぶっている人、高齢者で腰が曲がって顔の正面が撮影できない人などはサーモグラフィでは検温できない。スクリーニングなのである程度仕方がないと割りきっていた。

 第2波の頃ぐらいから病院にいろんなベンダから連絡があった。また知り合いのベンダに提案可能なベンダを問い合わせてもらったりした。それで連絡があった複数のベンダのデモを見た。日本製の装置、海外製の装置などいくつかあった。

 日本製、海外製問わず1)ができる製品は多かった(できない製品もあった)。日本製で1)と3)が出来るものとか。一人ずつ装置の前に立たなきゃならないけど、それはそれで受付とか再来受付機とかと絡めた運用を考えればなんとかなるのかなと思った。(装置のがわが出来上がってたのでそれをなんとかすればであるが)あと、再来受付機と絡めて持ってきたベンダもあった。
 海外製で1)2)3)4)5)が全部実現されているものがあった。

 その海外製の全部実現されている製品だがその一社だけ機能的に突出していて、その社の製品は流石世界最大の監視カメラメーカの製品だなと思った。価格も手頃だし機種によっては日本のベンダがOEMしてたりする。
 広角で撮影できて顔認証技術で顔を検知して目の間か額で体温を測る。複数の人間を同時に処理できる。
 ネットワーク対応されていてカメラとPCを離して置くことも出来るし、3)の画像を大きく表示させるためのモニタを接続可能である。大きなモニタは来院者側に向けて来院者の体温を知らせることも出来るし受付内部で来院者の確認のために使うことも出来る。
 他にはレコーダも接続可能である、と至れり尽くせり。

 そのメーカの製品はメーカの本国では大規模に展開されていて監視カメラとして犯罪捜査とかそれ以外の用途にも使用されているらしい。
 実戦ですでに稼働している「人を認識する技術」、「顔を認識する技術」に赤外線での温度測定を付けている感じ。それ故、いざ発見した人物をユーザに知らせる技術には長けているなとか利用現場の運用でのニーズをちゃんと拾ってるなという感じ。

 その製品だが、米中の貿易戦争で米国が人種差別/弾圧に加担しているとして目の敵にしている企業の製品なので日本国内での今後の機器の入手やサポートの継続はどうなるのかなと思う。米国さんは目の敵にしている企業と取引がある企業を締め出す的な法律を成立させるとかの話をしており、それもあって米国追随の我が国での事業は今後はどうなるんだろうかな、と言うのがリスク。

 ちなみに、離れたところからサーモグラフィの画像を見るためにネットワークを使ってサーモグラフィとPCを繋ぐ際には自分だったら病院内のネットワークとは物理的に分けるか、せめてVLANを切って論理的に電子カルテなどの病院ネットワークとは分けるし、インターネットにつながるネットワーク設定もしないと思う。ちょっと怖いから念の為ね。

 イマイチな日本のメーカさんには価格面と機能面、頑張って欲しいものである。サーモグラフィだから温度計る、だけじゃなくてもっと利用現場での運用を考えて欲しいなぁ、と言いたい。(まぁ、半年ぐらい前の話なのですでに発奮した日本メーカが作っているかもしれないが)

 スクリーニングをすり抜けた感染者に関してはその病院がこれまで対応してるCovid19対策に依る。
 サーモグラフィでの対応は病院の対策の一つに位置付けられ、検温業務の軽減に資することで病院の負荷を軽減することになると思う。

 ここまで書いて情報システムのマルウェア対策と似ていることに気がついた。
 マルウェアが日進月歩の進化を遂げ防御側が100%確実に防御するのが困難になっている。今のマルウェア対策は侵入されないことも重要だが侵入されても大きな問題が発生しないように縦深がある防御をとることが推奨される。それはICT的な対応のみならず、運用やシステム構成、ネットワーク構成などでもそれに見合った対策を取ることである。複層的な防御を行うことで一番深いレベルを守るというふうに考えるようになっている。

 まぁ、何事にも絶対はないので、層を重ねて重要な部分まで届かないようにする。サーモグラフィは一般のCovid19感染対策にプラスする層の一つであるという認識である。

 

PS.サーモグラフィネタは「今頃言ってんの!?もう入ってるよ」的な話が聞こえてきそうな周回遅れみたいなネタかも知れないけど直近でやってきたことなので綴ってみた。